2021.6.14 子育て
「心の動き」を味わう ~心理描写が絶妙な小説三選~
●はじめに
新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛で、多くの人の読書量が増えています。
皆さんの中には、「お気に入りの一冊」に出会えた方もおられるのではないでしょうか?
私は、小説をよく読みます。今回は、私が過去に読んだ小説のうち「心理描写がうまい!」と感じた3つの作品のあらすじを、魅力とともに紹介したいと思います。
●オススメその1 『証言』
『証言』は、『点と線』や『黒革の手帖』などで有名な松本清張さんによる短編小説です。
あらすじ……主人公は、ある夜、道端で偶然知人と出会う。翌日、ある事件で知人は容疑者となり、犯行時刻に主人公と会っていたことをアリバイとして主張。主人公が「会っていた」と証言すれば知人の潔白が証明されるのだが、主人公は、証言をためらう「ある秘密」があった……。
魅力……主人公は、「ある秘密」を守ろうとします。その時の微妙な心の揺れが繊細に描かれます。淡々とした文体ですし、短いのでサクッと読めます。結末は、ハッピーエンドともバッドエンドともつかない複雑なものですが、最後の一行には唸らされます。
●オススメその2 『クロスファイア(上・下)』
『クロスファイア』は、『ソロモンの偽証』や『模倣犯』などで有名な宮部みゆきさんによる長編SF小説です。
あらすじ……主人公は女性の超能力者。正義のために「念力放火」(念じるだけで燃やすことができる能力)を使っていた。だが、その行為が犯罪として警察に捜査されることになる。さらに、超能力者を利用する自警組織も現れ、物語は複雑に展開していく。
魅力……主人公の自信、不安、苛立ちなどが丁寧に描かれます。「彼女が実在したら、実際こんな人だろうな」と納得します。「念力放火」のことを警察官が客観的に見る描写も多く、「超能力」や「自警組織」などオカルト的な要素が多い物語にリアリティを与えています。
●オススメその3 『坂の途中の家』
『坂の途中の家』は、『八日目の蝉』などの小説、エッセイ集で有名な角田光代さんによる長編小説です。
あらすじ……主人公は幼い娘を育てる専業主婦。ある日、乳幼児虐待事件の裁判員裁判で裁判員として選ばれ、審理に参加する。被告人が「子育て中の主婦」であることから自分と被告人を重ね合わせ、母親、夫、義父母、娘との関係を見つめ直し、多くの悩みに直面していく。
魅力……「母親でいること」の光と影が、これでもかというほど細密に描かれます。また、育った家庭ごとに違う価値観、伝えたいことがうまく伝わらない、などの普遍的なことも描かれており、感情移入しやすいです。作風は決して明るいとは言えませんが、終盤の描写は、雲間から太陽の光が見えてくるような読後感を与えてくれます。
●おわりに
気になる作品はありましたか? 今回ご紹介した「魅力」は、あくまでも私の個人的なものです。人によって、読んだ後に感じる「魅力」は違うので、それを語り合ってみるのもいいかもしれませんね。
*参考書籍
◎松本清張、『証言』、双葉社、2008年
◎宮部みゆき、『クロスファイア』(上・下)、光文社、2011年
◎角田光代、『坂の途中の家』、朝日新聞出版、2018年